「何度だって僕が見つけるよ」





























この世界は、初めは黒…いや、数多の『混沌』に満ちていた。
生命はなく、地表も大気もこの混沌で覆われていた。
しかしある時、一筋の白が混沌を貫いた。
貫かれた混沌は分離し、様々な色に分かれた。
色は物質を構成し、この世界の元素になった。
この分解の力を持つ白を、後に人々は『無限光』と呼ぶ。

…と、神話は言っている。
結局は根拠のない人のバイアスのかかった人間ご都合主義のものだ。
実際の白は光を受け付けないものだし、黒は光を吸収するもの。
赤、青、黄…などを混ぜてしまえば黒を作るのは容易い。
けど、エントロピーの関係上、混ざった物を分けるのは一苦労だ。

一瞬で黒を分離する力が合れば、僕たちの世界はもっと栄えたはずだ。
大地の裂け目からあふれ出す黒が、利用可能なエネルギーの色に変わる。
画期的ではないか。自然界にはその力がある。
それこそ、何の色もない無色透明の無限光。まさしく『光』の集約現象。
天から注ぐこの光は、今もなお信仰の対象である。

白を崇めることはその光の侮辱ではないかと常々思うのだが、
長らく続いた思想というのはなかなか代え難い。
科学では無色と証明されてもなお、無限光を白と思いこんでいるのだから嘆かわしい。

そして僕は、この神秘的な現象を、科学の力でもって再現させようと努めている。
長らく続く国同士の戦乱の最中であってもこうして研究ができるのは、
無限光は実用性があるからだ。
エネルギー問題だけじゃない、色変術だってがらりと変わる。
このくだらない戦争に勝利出来るかもしれない。
無限光を無色と知っている人は、皆こう思っているはずだ。

――だったら、無限光の研究者を『軍人』として無理に兵力に加えないことが一番なのだが。

―シェンナ国 青色個体の研究者執筆 『身体エーテル体説』 の冒頭
 
 
青い雲に白い空。世界の端である黒地を背に追い込まれた内陸国シェンナ。
その軍の特殊構成「コルヒクム」隊所属の研究者アズライト・プラチコドンは、
ある調査の際に通常では不可視な人型の物質を見つける。

色も記憶もない透明人間をフォトンと名付け、
色変術の相棒でもある黒白補援個体のクォーツと
隊長バストネス・コルヒクムと共に
戦時中の忙しなく、それでいてどこか穏やかで楽しい日々を過ごしていく。

いつか頭の片隅に残る故郷へ帰る日を夢見て。











そう、夢を見る。 






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